売上原価の算定【決算整理】
売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高−期末商品棚卸高。商品ボックス図で4つの数字の位置を決めます。 ミナタカ商事は設立初年度なので、0+800,000−200,000=売上原価600,000円です。
仕入勘定の残高がそのままでは売上原価にならない理由を、費用と収益の対応から説明できる。期末商品棚卸高から決算整理仕訳を書き、仕入勘定の残高を売上原価に直せる。期首商品がある場合の2本の仕訳を、語呂ではなく商品ボックス図から組み立てられる。
売上原価は第3問の決算整理でほぼ毎回問われ、ここを外すと売上総利益から当期純利益まで連鎖して崩れます。第1問で単独の仕訳として問われることもあります。計算そのものは引き算1回ですが、期首・当期仕入・期末のどれをどちら側に書くかで迷いやすく、配点に対して失点の大きい論点です。
仕入800,000円が、そのまま当期の費用になるわけではありません
単元5で、商品を仕入れたとき・売ったときの仕訳は切れるようになりました。この単元は、その続きです。期中ずっと動かさずにおいた繰越商品を、決算日に1回だけ動かします。
三分法では、商品を仕入れたときに仕入勘定(費用)の借方に記入します。ミナタカ商事株式会社は、5月20日に商品800,000円を掛けで仕入れました。
(借) 仕入 800,000 / (貸) 買掛金 800,000
当期の仕入取引はこの1本だけなので、決算日(×2年3月31日)の時点で仕入勘定の残高は800,000円です。ところが、この800,000円をそのまま当期の費用にすることはできません。
決算日に倉庫を調べたところ、商品が200,000円分残っていました。この200,000円は、まだ売れていない商品です。売れていない以上、その仕入代金は当期の売上に一切貢献していません。簿記には、費用はそれによって得られた収益と同じ期間に計上するというルールがあります。ですから、売れた商品の原価だけを当期の費用とし、売れ残った商品は資産として次の期へ持ち越します。
当期に売れた商品の原価のことを売上原価といいます。ミナタカ商事の売上原価は次のように計算します。
仕入 800,000 − 決算日に残っていた商品 200,000 = 600,000
決算整理①「売上原価の算定」とは、仕入勘定の残高を800,000円から600,000円に直す作業のことです。仕入勘定は、決算整理を切った瞬間に「当期に仕入れた金額」から「当期に売れた商品の原価」へと中身が変わります。
そもそも、なぜ決算になってからこの作業をするのでしょうか。商品を売るたびに「いま売れた商品の原価はいくらか」を仕訳に書けば、決算整理は要らないはずです。しかし三分法は、その手間をかけない方法です。仕入れたときは仕入、売ったときは売上とだけ書いておき、売れ残りの調整は決算日にまとめて1回で済ませます。日々の記帳を軽くするかわりに、決算日に必ずこの1本が必要になる、という組み合わせだと理解してください。
商品ボックス図で、4つの数字の置き場所を決める
売上原価の計算は、次の箱の形にあてはめると位置を間違えません。左側が「当期に売る用意ができていた商品」、右側が「その商品の行き先」です。
┌─────────────────┬─────────────────┐ │ 期首商品棚卸高 │ 売上原価 │ ├─────────────────┤ │ │ 当期商品仕入高 ├─────────────────┤ │ │ 期末商品棚卸高 │ └─────────────────┴─────────────────┘
左側の合計と右側の合計は必ず一致します。前の期から持ち越した商品と、当期に仕入れた商品を合わせたものが、当期に売れる可能性のあった商品のすべてです。そしてその商品は、決算日までに「売れた」か「売れ残った」かのどちらかになっています。ほかに行き先はありません。売れたものの原価が売上原価、売れ残ったものが期末商品棚卸高です。
この関係を式にすると次のようになります。
期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 − 期末商品棚卸高 = 売上原価
ミナタカ商事は×1年4月1日に設立された会社で、当期が設立初年度です。設立した日に商品を持っているはずがないので、期首商品棚卸高は0円です。
0 + 800,000 − 200,000 = 600,000
4つの数字のうち、問題文に必ず書かれているのは期末商品棚卸高です。「期末商品棚卸高は200,000円である」という1行を見つけたら、残りの数字は決算整理前残高試算表から拾い、この式に入れます。式そのものは引き算1回なので、難しいのは計算ではなく、どの数字をどの位置に置くかだけです。
決算整理仕訳を書く(期首商品がない場合)
ミナタカ商事の決算整理仕訳は、次の1本です。
(借) 繰越商品 200,000 / (貸) 仕入 200,000
2つの勘定の動きを、別々に見ていきます。
貸方の仕入200,000円は、仕入勘定を200,000円減らす記入です。仕入勘定は費用なので、定位置は借方です。定位置と反対の貸方に書けば、残高はその分だけ減ります。これで仕入勘定の残高は800,000−200,000=600,000になります。売れ残った分を費用から取り除いた結果です。
借方の繰越商品200,000円は、繰越商品勘定を200,000円増やす記入です。繰越商品は資産なので、定位置は借方です。売れ残った商品を、費用の箱から資産の箱へ移したことになります。仕訳の借方と貸方に同じ200,000円が並んでいるのは、片方から取り出したものをそのままもう片方へ入れているからです。
ここで、三分法の大原則を確認しておきます。期中は、商品を仕入れても売っても繰越商品勘定を一切動かしません。仕入れたときは仕入勘定、売ったときは売上勘定を使います。繰越商品が動くのは決算日だけです。この原則を知っていれば、期中の仕訳に一度も出てこなかった繰越商品が決算整理で突然登場しても、戸惑わずに済みます。
仕入勘定をT字勘定で確かめます。
仕入
5/20 買掛金 800,000 │ 3/31 繰越商品 200,000
│ 残高 600,000決算整理前残高試算表の仕入は800,000円、決算整理後残高試算表の仕入は600,000円です。試算表の同じ「仕入」という行の金額が、決算整理を1本切っただけで売上原価に置き換わります。
期首商品がある場合は、仕訳が2本になる
ミナタカ商事は設立初年度なので期首商品が0円でしたが、2期目以降はそうはいきません。試験で出題される会社も、ほとんどが2期目以降です。ここだけは通し設例の外の数字を使います。設立初年度のミナタカ商事には期首商品が存在せず、期首がある形を設例の中では作れないためです。翌期(×2年4月1日〜×3年3月31日)の数字を仮に置いて確認します。
- 期首商品棚卸高 200,000円(当期の期末商品棚卸高が、そのまま翌期の期首商品棚卸高になります)
- 当期商品仕入高 700,000円
- 期末商品棚卸高 300,000円
決算整理仕訳は2本です。
① (借) 仕入 200,000 / (貸) 繰越商品 200,000 ② (借) 繰越商品 300,000 / (貸) 仕入 300,000
①は、期首の商品を費用に加える仕訳です。期首に持っていた200,000円の商品は、当期のうちに売られたものとして扱います。売れた商品の原価は当期の費用なので、仕入勘定の借方に加えます。同時に、繰越商品勘定に残っていた前期末の200,000円を貸方に書いて消します。この記入を忘れると、前期の商品と当期の商品が繰越商品勘定に二重に積み上がってしまいます。
②は、期末の売れ残りを費用から取り除く仕訳です。これは期首商品がない場合とまったく同じ形で、金額が300,000円になっただけです。
仕入勘定の残高を確かめます。
700,000 + 200,000 − 300,000 = 600,000
商品ボックス図の式そのままです。①が「期首を足す」、②が「期末を引く」に対応しています。繰越商品勘定のほうは、①で200,000円が消え、②で300,000円が入るので、残高は期末商品棚卸高の300,000円だけになります。
この2本を書く順に勘定科目の頭を並べると「しーくり・くりしー」という語呂になります。語呂は書き出しの助けになりますが、①がなぜ期首の金額で②がなぜ期末の金額なのかを説明できないまま語呂だけを持っていると、本番で金額を入れ替えて書いてしまいます。先に商品ボックス図を描き、左上の期首を①に、右下の期末を②に入れるという手順に固定してください。図から仕訳を作れば、順番を思い出す必要そのものがなくなります。
売上総利益まで出して、数字のつながりを確かめる
売上原価を求めたら、売上高から差し引いて売上総利益を計算します。
売上高 − 売上原価 = 売上総利益
ミナタカ商事の当期の売上高は1,400,000円です(6月15日の掛売上1本)。
1,400,000 − 600,000 = 800,000
売上総利益は、商品を仕入れて売るという商売そのものからいくら儲かったかを示す利益です。損益計算書では、この売上総利益から給料や支払家賃などを差し引いて営業利益を出し、さらに支払利息などを差し引いて税引前当期純利益へと続きます。つまり売上原価を1円間違えると、その先の利益がすべて同じ額だけずれます。第3問で売上原価を落とすと失点が1か所で止まらないのは、このためです。
もう1つ、名前について確認しておきます。損益計算書では、仕入勘定の残高は「仕入」ではなく売上原価という名前で表示されます。帳簿の中で使う勘定科目名と、損益計算書に印刷される表示科目名は別物です。決算整理後残高試算表や精算表では「仕入」のままで、損益計算書を作る段階で「売上原価」に読み替えます。金額はどちらも600,000円で変わりません。
損益計算書の冒頭は、次のように並びます。
売上高 1,400,000 売上原価 600,000 売上総利益 800,000
問題によっては、売上原価の行をさらに3行に分けて、期首商品棚卸高・当期商品仕入高・期末商品棚卸高の内訳を書かせる形式もあります。書き方が変わるだけで、計算している中身は商品ボックス図とまったく同じです。ミナタカ商事なら期首商品棚卸高が0、当期商品仕入高が800,000、期末商品棚卸高が200,000で、差引600,000となります。
繰越商品は、貸借対照表では「商品」と表示する
決算整理を終えたあと、ミナタカ商事の繰越商品勘定の残高は200,000円です。これは決算日に会社が持っている商品を表す資産なので、貸借対照表に載ります。ただし、載るときの名前は「繰越商品」ではありません。
貸借対照表では「商品」と表示します。
ミナタカ商事の貸借対照表の資産の部は、次のように並びます。
現金 128,000 当座預金 820,000 売掛金 400,000 商品 200,000 ← 繰越商品勘定の残高 前払費用 230,000 備品 300,000
「繰越商品」という名前は、帳簿の中で「前の期から繰り越してきた商品を入れておく箱」という役割を示すためのものです。これに対して貸借対照表は、株主や銀行など社外の人が読む書類です。読み手にとって必要な情報は「決算日にこの会社は商品を200,000円分持っている」という事実だけなので、そのまま伝わる「商品」という名前を使います。仕入勘定が損益計算書で「売上原価」になるのと同じ理由です。
どこまでが「繰越商品」で、どこからが「商品」になるのかを整理しておきます。
- 仕訳・総勘定元帳・決算整理後残高試算表・精算表 → 繰越商品
- 貸借対照表 → 商品
精算表の貸借対照表欄は、科目名を左端の勘定科目欄からそのまま引き継ぎます。ですから精算表の中では「繰越商品」のままで正解です。ここを「商品」に書き換えてしまう答案が毎回出ますが、名前が変わるのは独立した貸借対照表を作成するときだけだと覚えてください。
第3問での手順に落とし込む
第3問では、決算整理事項の中に次のような1行が入っています。
「期末商品棚卸高は200,000円である。売上原価は仕入勘定で算定する。」
この1行を見つけたら、やることは決まっています。手順は3つです。
手順1 決算整理前残高試算表から、繰越商品と仕入の金額を拾う。繰越商品の金額が期首商品棚卸高、仕入の金額が当期商品仕入高です。ミナタカ商事は設立初年度なので、決算整理前残高試算表に繰越商品の行がありません。期首商品棚卸高は0円として扱います。
手順2 商品ボックス図を問題用紙の余白に描き、拾った金額と問題文の期末商品棚卸高を入れる。手を動かして図を描くのは10秒ほどです。この10秒が、金額の入れ替えという最も多い失点を防ぎます。
手順3 仕訳を書く。期首商品棚卸高が0円なら1本、0円でなければ2本です。
「売上原価は仕入勘定で算定する」という指示は、いま学んだやり方で計算してくださいという意味です。3級ではこの指示が標準ですが、問題文の指示が異なる場合は必ず問題文に従ってください。
答案を書き終えたら、1点だけ検算します。決算整理後の繰越商品の金額、貸借対照表の商品の金額、問題文の期末商品棚卸高が、すべて同じ200,000円になっているかです。3つがそろっていれば、売上原価の処理は正しく通っています。そろっていなければ、仕訳の金額か転記のどちらかが間違っています。
【2027年度からの追加枠】売上原価対立法では、この決算整理が要りません
2027年4月1日以降の試験から、売上原価対立法が3級の出題範囲に加わります(単元5の末尾でも触れました)。
この方法では、商品を売るたびに売価と原価を2本立てで記録します。売った瞬間に売上原価が確定して積み上がっていくので、決算で売上原価を計算し直す必要がありません。この単元で学んだ「しーくりくりしー」の振替は、三分法だからこそ必要な手続きです。
言い換えると、決算整理の重さは記帳方法とセットで決まります。三分法は期中を軽くして決算に負担を寄せ、売上原価対立法は期中に負担を分散して決算を軽くします。どちらが正しいということはなく、期中に原価を追える仕組みがあるかどうかで選びます。
具体的な勘定科目と仕訳は、出題範囲の確定に合わせてこの節に追記します。いま押さえるのは、決算整理が必要かどうかは記帳方法によって変わるという1点です。
期末商品棚卸高は帳簿から拾う数字ではなく、実際に数えた結果です。決算の前後に倉庫や店舗で棚卸をして、そこで数えた数量がそのまま決算整理仕訳に入ります。
この単元の確認問題
答えを見る前に、まず自分の言葉で答えてみてください。言葉にできないところが、そのまま本試験で止まるところです。
Q. ミナタカ商事の当期の仕入は800,000円、決算日に売れ残っていた商品は200,000円でした。当期に売れた商品の原価(売上原価)はいくらですか。
A. 600,000円
仕入れた800,000円のうち200,000円は、決算日にまだ売れずに残っています。売れた分だけが当期の費用になるので、800,000−200,000=600,000円が売上原価です。売れ残った200,000円は資産として次の期に繰り越します。
Q. 期首商品棚卸高0円、当期商品仕入高800,000円、期末商品棚卸高200,000円のとき、商品ボックス図の左側の合計と右側の合計は、それぞれいくらになりますか。
A. 左側 800,000円、右側 800,000円
左側は期首商品棚卸高0+当期商品仕入高800,000で800,000円です。右側は売上原価600,000+期末商品棚卸高200,000で800,000円になります。左右が必ず一致するのは、用意した商品の行き先が「売れた」か「残った」かの2つしかないためです。
Q. ミナタカ商事の決算整理仕訳を書いてください。期末商品棚卸高は200,000円で、期首商品はありません。
A. (借) 繰越商品 200,000 / (貸) 仕入 200,000
売れ残った200,000円を、費用である仕入勘定から資産である繰越商品勘定へ移す仕訳です。仕入勘定を貸方に書いて減らし、同じ金額を借方の繰越商品勘定に振り替えます。これで仕入勘定の残高が800,000−200,000=600,000円となり、売上原価と一致します。
売上原価の算定【決算整理】は、読んで分かることと、本番で点になることが別です。点にするための材料はこちらにまとめてあります。
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- この単元の問題 26問(どこをどう間違えたかまで解説)
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- 財務諸表ラボ(切った仕訳が貸借対照表と損益計算書のどこに現れるかを画面で追う)
- この単元をそのまま簿記専用AIチューターに質問できます
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「第8章 決算 ― 1年をしめくくる」の他の単元
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- 単元31 決算手続きの全体像
- 単元33 経過勘定と再振替仕訳【決算整理】
- 単元34 その他の決算整理事項【決算整理】
- 単元35 決算整理後残高試算表
- 単元36 帳簿の締切と損益振替
- 単元37 精算表
- 単元38 財務諸表の作成(P/L・B/S)
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