決算手続きの全体像
決算整理が必要な理由は一本です。期中は現金や物が動いた事実で記録しているので、期間で区切ると当期の分と来期の分がずれます。 流れは、決算整理前残高試算表(合計3,100,000円)→未処理事項→決算整理7本→決算整理後残高試算表(合計3,268,000円)→財務諸表です。
決算整理前残高試算表から財務諸表までの流れを、順序どおりに言えるようになります。ミナタカ商事の決算整理7本が、それぞれどの勘定をいくら動かすのかを一覧で把握できます。第3問でどの形式が出ても、自分が今どの工程にいるのかを見失わなくなります。
第3問は35点で、配点の3分の1以上を1問が占めます。この1問は毎回「期中の集計が終わった試算表を渡され、決算整理を加えて財務諸表を完成させる」という同じ構造で出ます。個々の整理仕訳を覚える前に全体の順序を頭に入れておくと、途中で手が止まったときに戻る場所が分かります。
決算とは、期中の記録を1年分に区切る作業です
会社は日々の取引をそのつど仕訳し、総勘定元帳に転記しています。ここまでが期中の記録です。期中の記録は、原則としてお金や物が動いた事実をそのまま写しています。現金を払った日に費用を計上し、商品を仕入れた日に仕入を計上します。
ところが、これを×1年4月1日から×2年3月31日までという期間で区切ると、ずれが出ます。ミナタカ商事は×1年10月1日に、向こう1年分の事務所家賃240,000円を当座預金から支払いました。支払った事実は10月1日ですが、この240,000円のうち×2年4月以降に借りる部屋の分は、当期の費用ではありません。
決算整理が必要な理由は、突き詰めるとこの一本です。期中は現金や物が動いた事実で記録していますが、期間で区切ると当期の分と来期の分がずれます。そのずれを決算日に直す手続きが決算整理です。 売上原価の算定も、貸倒引当金の設定も、減価償却も、経過勘定も、すべてこの一本から出てきます。個別の処理はバラバラに見えますが、目的は共通しています。
決算日にこのずれを直す仕訳を決算整理仕訳、直すべき項目を決算整理事項といいます。
決算手続きは3段階に分かれます
決算でやることは3段階に分かれます。順番は決まっていて、入れ替わりません。
① 決算予備手続決算整理前残高試算表を作って期中の集計を確かめ、実地棚卸などで決算整理に必要な資料をそろえ、必要なら精算表という作業表を作ります。本番の帳簿に手を入れる前の下準備です。
② 決算本手続決算整理仕訳を切って総勘定元帳に転記し、決算整理後残高試算表を作ります。そのあと収益と費用を損益勘定に振り替えて当期純利益を計算し、繰越利益剰余金へ振り替えて帳簿を締め切ります。
③ 財務諸表の作成締め切ったあとの残高から、損益計算書と貸借対照表を作ります。
第3問で問われるのは、②の前半(決算整理仕訳から決算整理後残高試算表まで)と③です。②の後半にあたる帳簿の締切は単元36で扱います。この単元では、②の前半と③の流れだけを追います。
出発点は決算整理前残高試算表です
第3問は、たいてい決算整理前残高試算表(前T/B)を渡すところから始まります。これは期中の仕訳をすべて転記し終えた時点の各勘定の残高を一覧にしたもので、決算整理はまだ1本も入っていません。
ミナタカ商事の×2年3月31日時点の前T/Bは次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 128,000 | 買掛金 | 200,000 |
| 当座預金 | 820,000 | 借入金 | 500,000 |
| 売掛金 | 400,000 | 資本金 | 1,000,000 |
| 備品 | 300,000 | 売上 | 1,400,000 |
| 仕入 | 800,000 | ||
| 給料 | 240,000 | ||
| 支払家賃 | 240,000 | ||
| 保険料 | 120,000 | ||
| 通信費 | 36,000 | ||
| 水道光熱費 | 16,000 | ||
| 合計 | 3,100,000 | 合計 | 3,100,000 |
前T/Bの読み方は2つです。ひとつは借方合計と貸方合計が一致していることの確認で、ここが合わなければ期中の転記にミスがあります。もうひとつは、決算整理で動きそうな勘定に当たりをつけることです。仕入800,000円、支払家賃240,000円、保険料120,000円、売掛金400,000円、備品300,000円、借入金500,000円。この6つは、いずれもこのあとの決算整理で金額が動きます。
もうひとつ目を引くのは、前T/Bに繰越商品が1円も載っていないことです。ミナタカ商事は設立初年度なので期首商品がなく、期中に仕入れた分はすべて仕入勘定に入っています。商品の在庫は決算整理で初めて帳簿に現れます。
決算整理事項は、ミナタカ商事では7本です
ミナタカ商事の決算整理事項は7本です。3級で出る決算整理は種類が限られていて、毎回だいたいこの顔ぶれから出ます。
| No | 決算整理事項 | 借方 | 貸方 | 単元 |
|---|---|---|---|---|
| ① | 期末商品棚卸高は200,000円 | 繰越商品 200,000 | 仕入 200,000 | 31 |
| ② | 売掛金の期末残高に2%の貸倒引当金を設定 | 貸倒引当金繰入 8,000 | 貸倒引当金 8,000 | 32 |
| ③ | 備品を定額法で減価償却(耐用年数5年・間接法) | 減価償却費 60,000 | 減価償却累計額 60,000 | 13 |
| ④ | 家賃240,000円のうち次期の分を繰り延べ | 前払費用 120,000 | 支払家賃 120,000 | 33 |
| ⑤ | 保険料120,000円のうち次期の分を繰り延べ | 前払費用 110,000 | 保険料 110,000 | 33 |
| ⑥ | 借入金の当期分の利息を見越し | 支払利息 10,000 | 未払費用 10,000 | 33 |
| ⑦ | 税引前当期純利益の30%を法人税等に計上 | 法人税等 90,000 | 未払法人税等 90,000 | 34 |
この7本を「なぜ必要か」で並べ直すと、最初の節で書いた一本の理由に戻ります。①は仕入れた800,000円のうち売れずに残った200,000円が来期の分だから戻す処理、③は備品300,000円のうち当期に使った分だけを費用にする処理、④⑤は支払った金額のうち来期に使う分を費用から抜く処理、⑥は当期に使ったのにまだ支払っていない分を費用に入れる処理です。②と⑦だけは少し毛色が違い、②は来期に起きそうな貸倒れを当期の売上に対応させる処理、⑦は当期の利益にかかる税金を当期の費用にする処理です。
7本を切る順番は基本的に自由です。 どの順に切っても後T/Bは同じになります。ただし⑦の法人税等だけは、①から⑥をすべて終えて税引前当期純利益が確定しないと金額を計算できないので、必ず最後に回します。
個々の処理の中身は単元32以降で1つずつ扱います。ここでは7本の顔ぶれと順序だけを覚えてください。
未処理事項と決算整理事項は別物です
第3問の問題文には、決算整理事項のほかに未処理事項が混ざっていることがあります。この2つは性格が違います。
未処理事項は、期中に起きていたのに帳簿に書き忘れていた取引です。本来は期中に切るはずだった仕訳を、決算日に遅れて切ります。仕訳の中身は期中取引そのままで、決算だから特別なことをするわけではありません。
決算整理事項は、期中には切りようがなかった仕訳です。減価償却費は1年が終わらないと当期の使用分が決まりませんし、前払費用は決算日で区切って初めて次期の分が確定します。書き忘れではなく、決算日にしか切れない仕訳です。
順番には注意が必要です。未処理事項を先に処理してから、決算整理事項に入ります。 未処理事項が売掛金や当座預金の残高を動かすことがあり、その残高を使って貸倒引当金を計算するからです。順序を逆にすると、貸倒引当金の設定額を間違えます。
ミナタカ商事には未処理事項がありません。仕組みを説明するために、ここだけ設例の外から数字を1つ借ります。たとえば「決算日に売掛金100,000円が当座預金に振り込まれていたが、未記帳だった」という未処理事項があったとします。このときはまず(借方)当座預金100,000/(貸方)売掛金100,000を切り、そのあとで減ったあとの売掛金残高に2%を掛けて貸倒引当金を計算します。
7本を足すと決算整理後残高試算表になります
前T/Bの各勘定に決算整理7本を加減した結果が、決算整理後残高試算表(後T/B)です。
まず合計額がいくらになるかを先に計算しておきます。7本のうち合計額を増やすのは、借方と貸方の両方に新しい金額が乗る仕訳だけです。
- ②貸倒引当金繰入 8,000
- ③減価償却費 60,000
- ⑥支払利息 10,000
- ⑦法人税等 90,000
- 増加額の合計 8,000+60,000+10,000+90,000=168,000
①④⑤は借方の中での振り替え(仕入から繰越商品へ、支払家賃から前払費用へ、保険料から前払費用へ)なので、合計額を動かしません。したがって後T/Bの合計は 3,100,000+168,000=3,268,000円になります。
実際の後T/Bは次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 128,000 | 貸倒引当金 | 8,000 |
| 当座預金 | 820,000 | 減価償却累計額 | 60,000 |
| 売掛金 | 400,000 | 買掛金 | 200,000 |
| 繰越商品 | 200,000 | 借入金 | 500,000 |
| 前払費用 | 230,000 | 未払費用 | 10,000 |
| 備品 | 300,000 | 未払法人税等 | 90,000 |
| 仕入 | 600,000 | 資本金 | 1,000,000 |
| 給料 | 240,000 | 売上 | 1,400,000 |
| 支払家賃 | 120,000 | ||
| 保険料 | 10,000 | ||
| 通信費 | 36,000 | ||
| 水道光熱費 | 16,000 | ||
| 減価償却費 | 60,000 | ||
| 貸倒引当金繰入 | 8,000 | ||
| 支払利息 | 10,000 | ||
| 法人税等 | 90,000 | ||
| 合計 | 3,268,000 | 合計 | 3,268,000 |
前払費用230,000円は、④の家賃分120,000円と⑤の保険料分110,000円を合わせた金額です。
後T/Bを水平に切ると、B/SとP/Lになります
後T/Bの行を、資産・負債・純資産のグループと収益・費用のグループの間で水平に一本切ります。
上半分(資産・負債・純資産)
- 借方:現金128,000+当座預金820,000+売掛金400,000+繰越商品200,000+前払費用230,000+備品300,000=2,078,000
- 貸方:貸倒引当金8,000+減価償却累計額60,000+買掛金200,000+借入金500,000+未払費用10,000+未払法人税等90,000+資本金1,000,000=1,868,000
- 差額:2,078,000−1,868,000=210,000(貸方が不足)
下半分(収益・費用)
- 借方:仕入600,000+給料240,000+支払家賃120,000+保険料10,000+通信費36,000+水道光熱費16,000+減価償却費60,000+貸倒引当金繰入8,000+支払利息10,000+法人税等90,000=1,190,000
- 貸方:売上1,400,000
- 差額:1,400,000−1,190,000=210,000(借方が不足)
上下とも差額は210,000円で、しかも反対側に現れます。これが当期純利益です。上半分がそのまま貸借対照表、下半分がそのまま損益計算書になります。
後T/B全体では借方3,268,000円と貸方3,268,000円が一致していたのですから、水平に切って上半分で貸方が210,000円足りなければ、下半分では借方が210,000円足りません。当期純利益が貸借差額で求まるのは、たまたまの一致ではなくこの構造の結果です。
なお財務諸表にするときは表示の名前が変わります。繰越商品は商品、仕入は売上原価、法人税等は法人税、住民税及び事業税になります。貸倒引当金は売掛金から、減価償却累計額は備品から控除する形で表示します。読み替えの詳細は単元38で扱います。
第3問は3つの形のどれかで出ます
問われる中身は同じでも、答案用紙の形が3つあります。
① 財務諸表作成型損益計算書と貸借対照表の空欄を埋めます。近年もっとも多い形です。勘定科目名から表示科目名への読み替えが必要なので、3つの中では一番手間がかかります(単元38)。
② 決算整理後残高試算表作成型後T/Bの空欄を埋めます。勘定科目名のまま書けるので、読み替えのぶんだけ負担が軽くなります(単元35)。
③ 精算表作成型前T/Bの右に修正記入欄・損益計算書欄・貸借対照表欄が並ぶ表を埋めます。決算整理仕訳を修正記入欄に書き、横へ流していく形です(単元37)。
どの形でも、手を動かす順番は同じです。
- 未処理事項を処理する
- 決算整理仕訳を切る(法人税等は最後)
- 前T/Bの各金額に加減して整理後の残高を出す
- 答案用紙の形に合わせて書き写す
- 貸借合計の一致で検算する
第3問で点を積むときに効くのは、全部を埋めようとしないことです。7本の整理仕訳のうち確実に分かるものから順に反映していけば、その勘定の行は正解になります。当期純利益まで合わなくても、途中の行はそれぞれ独立して採点されます。
上場企業は上場規則の45日ルールに従い、決算日から45日以内に決算短信を発表します。締めが早いほど経営の判断も早くなるため、決算を速く終えられる力は高く評価されます。
この単元の確認問題
答えを見る前に、まず自分の言葉で答えてみてください。言葉にできないところが、そのまま本試験で止まるところです。
Q. ミナタカ商事が×1年10月1日に支払った家賃240,000円のうち、当期(×1年4月1日〜×2年3月31日)の費用にしてよいのは何か月分ですか。月数だけ答えてください。
A. 6か月分
×1年10月1日から×2年3月31日までが当期に含まれる期間で、これが6か月です。残りの6か月(×2年4月〜9月)は来期に借りる部屋の分なので、当期の費用にはなりません。ずれているのはこの6か月分です。
Q. 決算整理仕訳を総勘定元帳に転記するのは、①決算予備手続・②決算本手続・③財務諸表の作成 のどの段階ですか。
A. ②決算本手続
決算整理仕訳は総勘定元帳という本番の帳簿に記入する仕訳なので、下準備ではなく本手続に含まれます。予備手続で作る精算表は、帳簿の外で作る下書き用の作業表です。
Q. ミナタカ商事の決算整理前残高試算表の貸方合計を、勘定ごとの金額を足して計算してください。
A. 買掛金200,000+借入金500,000+資本金1,000,000+売上1,400,000=3,100,000円
貸方に残高があるのはこの4つだけです。借方も現金128,000+当座預金820,000+売掛金400,000+備品300,000+仕入800,000+給料240,000+支払家賃240,000+保険料120,000+通信費36,000+水道光熱費16,000=3,100,000円で一致します。期中のすべての仕訳が借方と貸方を同額で動かしているため、必ず一致します。
決算手続きの全体像は、読んで分かることと、本番で点になることが別です。点にするための材料はこちらにまとめてあります。
- この単元の確認問題 あと5問
- この単元の問題 19問(どこをどう間違えたかまで解説)
- この単元のひっかけ 5件(本試験がどう引っかけてくるか)
- 財務諸表ラボ(切った仕訳が貸借対照表と損益計算書のどこに現れるかを画面で追う)
- この単元をそのまま簿記専用AIチューターに質問できます
- 間違えた問題だけを自動で拾い直す復習リスト
「第8章 決算 ― 1年をしめくくる」の他の単元
- 単元30 試算表
- 単元32 売上原価の算定【決算整理】
- 単元33 経過勘定と再振替仕訳【決算整理】
- 単元34 その他の決算整理事項【決算整理】
- 単元35 決算整理後残高試算表
- 単元36 帳簿の締切と損益振替
- 単元37 精算表
- 単元38 財務諸表の作成(P/L・B/S)
この単元を、手を動かして確かめる
簿記3級AIチューターでは、いま読んだ単元の仕訳をその場で切って、 それが貸借対照表と損益計算書のどこに現れるかまで画面で追えます。 わからないところは簿記専用のAIチューターに訊けます。
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