労働関連法規と取引関連法規
労働基準法は労働条件の最低基準を定め、労働者派遣法は派遣労働の仕組みを規定します。IT業界特有の契約形態として請負契約・準委任契約・派遣契約の違いを理解することが重要です。
労働基準法や労働者派遣法など働き方に関わる法律の基本と、中小受託取引適正化法や独占禁止法といった取引に関わる法律の目的を説明できるようになります。
IT業界はSES(システムエンジニアリングサービス)や業務委託など多様な契約形態が使われる業界であり、契約形態の違いを法律の観点から理解しておくことは実務上も重要です。試験でも頻出のテーマです。
労働者を守る法律のしくみ
働く人が安心して働けるように、労働条件や職場環境に関するさまざまな法律が定められています。
労働契約法は、労働者と使用者が対等な立場で労働契約を結び、その内容を守ることを基本原則として定めた法律です。そのうえで労働基準法は、労働時間・休日・賃金など、労働条件の最低基準を具体的に定めています。使用者は、労働基準法が定める基準を下回る条件で従業員を働かせることはできません。法定労働時間は原則として1日8時間・週40時間以内とされており、これを超えて働かせる場合には、労使間で36協定(サブロク協定)と呼ばれる労使協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。
働き方の柔軟性を高める仕組みとして、一定期間内で労働時間を調整できるフレックスタイム制や、実際の労働時間ではなくあらかじめ定めた時間働いたものとみなす裁量労働制があります。また、賃金には都道府県ごとに定められた最低賃金を下回ってはならないという規定もあります。
このほか、労働者の安全と心身の健康を守る労働安全衛生法、職場でのパワーハラスメントの防止を事業主に義務付ける労働施策総合推進法(パワハラ防止法)など、雇用の安定や職業生活の向上を目的とした法律も整備されています。これらは、労働時間や賃金といった「働く条件」だけでなく、「働く環境の安全さ」まで法律の対象を広げたものと理解しておくとよいでしょう。
労働者派遣の分野では、労働者派遣法(労働者派遣事業法)が、派遣事業を行うには国の認可が必要であることや、派遣元事業主が守るべき規定を定めています。派遣という働き方は、雇用契約を結ぶ相手と、実際に指揮命令を行う相手が分かれる点に特徴があり、この構造は次のセクションで扱うIT業界の契約形態を理解するうえでも重要な前提になります。
これらの法律は、いずれも働く人を保護するための最低ラインを定めるものであり、企業が独自にそれを下回るルールを就業規則などで定めても無効になります。反対に、法律の基準を上回る条件を会社が用意することは自由です。IT業界では技術者が客先に常駐して働くケースも多いため、自分がどの法律の保護対象になっているのかを理解しておくことが、実務上も役立ちます。
IT業界の契約類型と守秘義務
IT業界では、システム開発や技術者の提供にあたって複数の契約形態が使われており、どの契約かによって指揮命令権の所在が大きく異なります。この違いは、家を建てる場面に置き換えるとイメージしやすくなります。工務店に「この図面通りの家を完成させてほしい」と依頼する場合、家の建て方や作業の進め方は工務店が自分たちの判断で決めます。これが請負契約の考え方です。
請負契約は、成果物の完成を約束する契約です。発注者は完成した成果物に対して報酬を支払い、作業の進め方や作業者への指示は受注した会社が自らの判断で行います。発注者が請負側の作業者に直接指揮命令を行うことは、原則として認められていません。契約上は請負でありながら発注者が実質的に直接指示を出している状態は偽装請負と呼ばれ、違法となります。
委任契約(準委任契約)は、成果物の完成ではなく、業務の遂行そのものを目的とする契約です。IT業界のSES(システムエンジニアリングサービス)契約はこの準委任契約にあたることが多く、請負契約と同様に指揮命令は受託側の会社が行います。成果物を完成させる義務がない代わりに、契約で定めた業務を誠実に遂行する義務を負う点が請負契約との違いです。
これに対して労働者派遣契約は、雇用契約を結ぶ相手(派遣元)と、指揮命令を行う相手(派遣先)が分かれる契約です。違いは指揮命令権が誰にあるかという一点にあります。派遣は派遣先が直接命令できますが、請負や準委任では、注文者は作業者に直接命令することができません。技術者本人からすると、雇用契約を結んでいる会社(給料をもらう相手)と、日々指示を受ける相手が一致しているかどうかが、契約形態を見分ける手がかりになります。
またIT業界では、業務上知り得た顧客情報や技術情報を第三者に漏らさないことを約束する守秘義務契約が、雇用契約や業務委託契約とあわせて結ばれることが一般的です。開発現場では複数の会社の技術者が同じプロジェクトに関わることも多く、誰がどの契約に基づいて働いているのかを整理しておかないと、意図せず偽装請負の状態を生んでしまうこともあるため、発注する側・受注する側の双方が指揮命令権の所在を意識しておく必要があります。
取引を公正に保つ法律
企業間の取引や、企業と消費者との取引を公正に保つための法律も、IT業界に深く関わっています。
大企業が中小の下請事業者に業務を発注する場面では、立場の弱い受託事業者が不当な扱いを受けないように、中小受託取引適正化法(取適法)が定められています。この法律では、発注内容を明確にした書面を交付する義務や、代金を発注から一定期間内に支払う義務が親事業者に課されています。受託事業者に責任がないにもかかわらず発注内容を減額したり、成果物の受け取りを拒否したりする行為は禁止されています。IT業界では、大手企業が中小のソフトウェア開発会社に開発を委託する場面が多く、この法律が適用されるケースが少なくありません。以前はこの分野の法律は下請法と呼ばれていましたが、名称と対象範囲が見直され、現在は中小受託取引適正化法という名称になっています。
市場全体の公正な競争を守る法律が独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)です。複数の企業が示し合わせて価格を統制するカルテルや、取引先に不当に不利な条件を強いる行為などを規制し、公正取引委員会がその運用を担っています。中小受託取引適正化法が下請取引に特化した具体的なルールであるのに対し、独占禁止法は市場競争全体を守る大枠のルールという位置づけで理解すると整理しやすくなります。
消費者を守る法律としては、大げさな表現で消費者をだますような広告や、広告であることを隠して宣伝を行うステルスマーケティングを規制する景品表示法があります。通信販売や訪問販売など特定の取引形態における契約ルールを定める特定商取引法、製品の欠陥によって生じた損害について製造業者の責任を定めるPL法(製造物責任法)もあわせて押さえておきましょう。
このほか、キャッシュレス決済の普及に伴い資金決済法、株式や投資商品の取引を扱う金融商品取引法、巨大IT企業の取引の透明性を確保する特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律など、金融やデジタル分野に特化した取引関連法規も整備されています。
この単元の確認問題
答えを見る前に、まず自分の言葉で答えてみてください。言葉にできないところが、そのまま本試験で止まるところです。
Q. 法定労働時間を超えて労働させる場合に、労使間で結び労働基準監督署に届け出る必要がある協定を何と呼びますか。
A. 36協定(サブロク協定)です。労働基準法36条に基づく労使協定で、この締結と届出がなければ時間外労働や休日労働をさせることはできません。
Q. 請負契約と労働者派遣契約の最大の違いは何ですか。
A. 指揮命令権が誰にあるかです。請負契約では受注した会社が作業者に指示を出しますが、労働者派遣契約では派遣先が派遣労働者に直接指揮命令を行うことが法律上認められています。
Q. 大企業が中小の下請事業者を不当に扱うことを防ぐために定められている法律を何と呼びますか。
A. 中小受託取引適正化法(取適法)です。発注書面の交付義務や代金の支払期限などを定め、立場の弱い受託事業者を保護しています。以前は下請法と呼ばれていましたが、法改正により名称と対象が変わりました。
労働関連法規と取引関連法規は、読んで分かることと、本番で点になることが別です。点にするための材料はこちらにまとめてあります。
- この単元の問題 11問(どこをどう間違えたかまで解説)
- この単元のひっかけ(本試験がどう引っかけてくるか)
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