貸倒引当金の設定【決算整理】
決算日に、期末の売掛金などの残高に設定率を掛けて貸倒見積額を計算します。 ミナタカ商事は売掛金400,000円×2%=8,000円、期首残高が0なので全額を繰り入れます。
期末の売掛金残高に設定率を掛けて、貸倒見積額を自分で計算できます。差額補充法で、繰入・戻入・仕訳なしの3パターンを判断して仕訳を切れます。貸倒引当金が資産のマイナスである理由を説明し、貸借対照表に控除形式で表示できます。
決算整理のなかで、貸倒引当金は売上原価と並んで第3問にほぼ毎回登場します。計算は掛け算と引き算だけですが、貸方に立つ勘定であること、売掛金を直接減らさないこと、貸借対照表で控除形式になることの3点でつまずく人が多く、ここを固めると第3問の得点が安定します。
売掛金は「全額回収できる」とは限らない
ミナタカ商事株式会社は、×1年6月15日に商品1,400,000円を掛けで売り上げ、×1年7月31日にそのうち1,000,000円を当座預金で回収しました。決算日である×2年3月31日の時点で、売掛金の残高は次のとおりです。
1,400,000円 − 1,000,000円 = 400,000円
この400,000円は、翌期に入金されるはずのお金です。ただし「はず」であって、確定した現金ではありません。取引先の経営が行き詰まれば、回収できないまま終わることもあります。売掛金が回収できなくなることを貸倒れといいます。
ここで問題になるのが、損失をどの期に載せるかです。売上1,400,000円を計上したのは当期です。その売上から生まれた売掛金が翌期に回収できなくなったとして、その損失を翌期の費用にしてしまうと、当期は売上だけが載って利益が大きく見え、翌期は損失だけが載って利益が小さく見えます。売上と、それに対応する損失が、別々の期に散らばってしまうわけです。
そこで簿記では、決算日に、翌期以降に発生しそうな貸倒れの金額を見積もって、当期の費用として先に計上します。この見積額を受け止める勘定が貸倒引当金です。実際にはまだ1円も回収不能になっていない段階で費用を立てる、という点が、これまで学んだ取引と決定的に違うところです。
決算整理で行うのは、あくまで見積計上です。実際に貸倒れが起きたときの処理とは別物なので、分けて理解してください。
貸倒見積額を計算する
貸倒引当金をいくら設定するかは、次の式で決まります。
貸倒見積額 = 期末の債権残高 × 設定率
期末の債権残高とは、決算整理を終えた時点の売掛金や電子記録債権の残高です。試験では「売掛金の期末残高に対して2%」のように、対象となる債権と設定率が問題文で与えられます。自分で率を決める必要はありません。
ミナタカ商事の場合、対象は売掛金400,000円、設定率は2%です。
400,000円 × 2% = 8,000円
この8,000円が、当期末に貸倒引当金として計上しておくべき金額、つまり要設定額です。
計算そのものは掛け算1回で終わります。落とすとすれば、掛ける相手を間違えるところです。母数になるのは、あくまで期末に残っている債権であって、当期の売上高ではありません。ミナタカ商事の売上高は1,400,000円ですが、これに2%を掛けて28,000円としてはいけません。すでに1,000,000円は現金として回収済みで、その分について貸倒れの心配はもうないからです。
また、母数に入るのは売掛金・電子記録債権といった営業上の債権です。貸付金や未収入金が対象に含まれるかどうかは問題文の指示に従ってください。指示がなければ、書かれている債権だけを母数にします。
設定の仕訳を切る
見積額が決まったら仕訳にします。ミナタカ商事は設立初年度なので、期首の貸倒引当金残高は0です。したがって要設定額8,000円をそのまま全額計上します。
×2年3月31日
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金繰入 | 8,000 | 貸倒引当金 | 8,000 |
借方の貸倒引当金繰入は費用です。損益計算書では販売費及び一般管理費に入ります。ミナタカ商事の損益計算書でも、給料240,000円や減価償却費60,000円と並んで、貸倒引当金繰入8,000円が販売費及び一般管理費に載ります。
貸方の貸倒引当金は貸借対照表に残る勘定です。「繰入」が付くほうが費用、付かないほうが貸借対照表の勘定、と区別してください。名前が似ているので、答案で書き分けを間違えると失点します。
この仕訳で注意したいのは、売掛金は1円も減らないことです。
借方に貸倒引当金繰入、貸方に売掛金と書きたくなるかもしれません。しかしそれは間違いです。決算日の時点では、どの取引先が回収不能になるかは分かっていません。特定の相手が決まっていない以上、売掛金という具体的な債権を直接減らすことはできないのです。そこで売掛金には手を触れず、別の勘定である貸倒引当金を横に置いておきます。売掛金の帳簿残高は400,000円のまま、決算を越えて翌期に繰り越されます。
貸倒引当金が貸方にある理由
貸倒引当金は、資産・負債・純資産・収益・費用の5要素でいうと資産に分類されます。それなのに定位置は貸方です。ここが多くの学習者がつまずくところなので、理屈を押さえておきます。
貸倒引当金は、売掛金という資産の金額を減らすために置かれている勘定です。売掛金の帳簿残高は400,000円ですが、そのうち8,000円は回収できないと見込んでいるので、実質的な価値は392,000円だと考えます。この「マイナス8,000円」を表しているのが貸倒引当金です。
資産は借方が定位置です。その資産をマイナスするものは、反対側の貸方が定位置になります。プラスの反対がマイナスであるのと同じで、借方の反対が貸方だ、というだけの話です。このように、ある勘定の金額を評価し直すために置かれる勘定を評価勘定といいます。
貸方にあるからといって負債ではありません。貸倒引当金は誰かに支払う義務ではなく、将来お金を払う予定は一切ありません。単に売掛金の見込み価値を下げているだけです。
3級で出てくる評価勘定はもう1つあります。固定資産に対する減価償却累計額です(単元18)。どちらも資産のマイナスで、どちらも貸方が定位置だという点は共通しています。
貸借対照表では売掛金から控除して表示する
貸倒引当金が売掛金のマイナスであることは、貸借対照表の書き方にそのまま表れます。負債の部ではなく、資産の部で、売掛金のすぐ下に控除する形で並べます。ミナタカ商事の貸借対照表の資産の部は次のようになります。
| 科目 | 金額 |
|---|---|
| 現金 | 128,000 |
| 当座預金 | 820,000 |
| 売掛金 | 400,000 |
| 貸倒引当金 | △8,000 |
| 商品 | 200,000 |
| 前払費用 | 230,000 |
| 備品 | 300,000 |
| 減価償却累計額 | △60,000 |
| 資産合計 | 2,010,000 |
売掛金400,000円と貸倒引当金△8,000円の差である392,000円が、この会社が回収できると見込んでいる金額です。この表示方法を控除形式といいます。
控除形式には利点があります。売掛金の帳簿残高400,000円と、見積もった貸倒額8,000円の両方が読み手に見えることです。もし最初から392,000円とだけ書いてあったら、債権がいくらあって、そのうちいくらを危ないと見ているのかが分かりません。2つ並べることで、会社がどれくらい慎重に見積もっているかまで読み取れます。
資産合計を計算するときは、当然△8,000円を引いた後の金額を積み上げます。ミナタカ商事の資産合計2,010,000円は、貸倒引当金と減価償却累計額を控除した後の数字です。
減価償却累計額も同じ考え方で、備品300,000円の下に△60,000円と並べます。評価勘定の表示は2つとも共通だと覚えてください。
期首に残高があるときは差額だけ繰り入れる
ミナタカ商事は設立初年度なので期首残高が0でしたが、2期目以降はそうはいきません。前期末に設定した貸倒引当金が、使われないまま残っていることがあるからです。
ここは設立初年度の設例では説明できない場面なので、この節だけ別の数字を使います。ある会社の決算日に、期末売掛金が500,000円、設定率が2%、貸倒引当金の残高が3,000円あるとします。
まず要設定額を出します。
500,000円 × 2% = 10,000円
次に、すでにある残高との差を取ります。
10,000円 − 3,000円 = 7,000円
仕訳はこうなります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金繰入 | 7,000 | 貸倒引当金 | 7,000 |
この方法を差額補充法といいます。足りない分だけを補充する、という意味です。
なぜ全額の10,000円を繰り入れないのでしょうか。もし10,000円を繰り入れると、貸倒引当金の残高は3,000円 + 10,000円 = 13,000円になってしまいます。要設定額は10,000円なので、3,000円多すぎます。決算整理の目的は、決算日時点で貸倒引当金の残高を要設定額ちょうどに合わせることです。だから差額だけを足します。
計算は必ず2段階で書いてください。要設定額を出す掛け算と、残高を引く引き算です。頭の中で1本にまとめようとすると、母数と残高を取り違えます。
ミナタカ商事の8,000円も、実は同じ手順の結果です。10,000円のところが8,000円、引く残高が0円だったので、差額がそのまま8,000円になった、というだけです。差額補充法は、期首残高が0のときの計算も含んでいます。
残高が多すぎるときは戻し入れる
差額補充法には逆のパターンもあります。すでにある貸倒引当金の残高が、要設定額より多い場合です。売掛金が前期末より大きく減ったときなどに起こります。
前節と同じ会社で、要設定額が10,000円、貸倒引当金の残高が12,000円あるとします。差額はマイナス側に出ます。
10,000円 − 12,000円 = △2,000円
2,000円だけ多すぎるので、その分を減らします。貸倒引当金を減らすということは、定位置が貸方なので、借方に書くことになります。相手勘定は貸倒引当金戻入という収益です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 2,000 | 貸倒引当金戻入 | 2,000 |
前期に費用として計上しすぎていた分を、当期に収益として戻す処理です。損益計算書では営業外収益などに載ります。
判断は単純です。要設定額と残高を比べて、足りなければ繰入(費用)、多すぎれば戻入(収益)です。どちらになるかは計算するまで分かりませんから、必ず要設定額を先に出し、残高と引き算をしてから、借方貸方どちらに貸倒引当金が来るかを決めてください。
なお、要設定額と残高が偶然ぴったり一致した場合は、差額が0なので仕訳なしです。仕訳を書かないことが正解になる場面もあります。
決算の見積計上と、期中の貸倒れは別の処理
最後に、貸倒れをめぐる処理の全体を整理します。混乱の原因は、決算整理の見積計上と、実際に貸倒れが起きたときの処理が、頭の中で1つになってしまうことです。この2つは、起きるタイミングも仕訳も別物です。
決算日にすることは、この単元で扱った見積計上です。まだ何も起きていない段階で、翌期以降の貸倒れに備えて費用を先に立てます。使う勘定は貸倒引当金繰入と貸倒引当金です。
期中に実際の貸倒れが起きたときは、売掛金を実際に消します。このとき、貸倒引当金がすでに積んであれば、まずそこから充当します。備えていたものを使うわけですから、貸倒引当金を借方に書いて減らし、売掛金を貸方に書いて消します。貸倒引当金の残高が足りない部分や、そもそも引当金の対象になっていなかった債権については、貸倒損失という費用で処理します。期中の貸倒れの詳しい処理は、単元15で扱います。
ミナタカ商事は設立初年度で、期中に貸倒れは1件も発生していません。ですから当期に登場するのは、決算整理の1本だけです。
(借)貸倒引当金繰入 8,000 /(貸)貸倒引当金 8,000
この8,000円は、翌期に持ち越されます。翌期に実際の貸倒れが起きればそこから充当され、翌期末には、そのとき残っている売掛金をもとに、また差額補充法で残高を調整します。この繰り返しが毎年続いていきます。
第3問の決算整理では、貸倒引当金はほぼ毎回出題されます。手順は「期末債権残高を確定する」「設定率を掛けて要設定額を出す」「残高との差額を仕訳にする」の3つです。この順番を崩さないことが、確実に得点する条件になります。
設定率の2パーセントは法律で決まった数字ではありません。過去に実際どれくらい回収できなかったかという自社の実績から決め、取引先が変われば見直します。
この単元の確認問題
答えを見る前に、まず自分の言葉で答えてみてください。言葉にできないところが、そのまま本試験で止まるところです。
Q. ミナタカ商事の×2年3月31日時点の売掛金残高はいくらですか。計算式も書いてください。
A. 1,400,000円 − 1,000,000円 = 400,000円
×1年6月15日の掛売上で売掛金1,400,000円が借方に立ち、×1年7月31日の回収で1,000,000円が貸方に消えました。売掛金は資産なので借方が定位置で、増えた額から減った額を引いた400,000円が期末残高になります。
Q. ミナタカ商事の当期末の貸倒見積額はいくらですか。計算式を書いてから答えてください。
A. 400,000円 × 2% = 8,000円
母数は期末に残っている売掛金400,000円です。売上高1,400,000円ではありません。すでに回収した1,000,000円については貸倒れが起きようがないので、母数から外れています。
Q. ミナタカ商事の×2年3月31日の貸倒引当金設定の仕訳を書いてください。
A. (借)貸倒引当金繰入 8,000 /(貸)貸倒引当金 8,000
要設定額8,000円で、期首残高が0なので全額を繰り入れます。貸方は売掛金ではなく貸倒引当金です。決算日の時点ではどの取引先の債権が焦げ付くか特定できないため、売掛金そのものは減らしません。
貸倒引当金の設定【決算整理】は、読んで分かることと、本番で点になることが別です。点にするための材料はこちらにまとめてあります。
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