ビジネス戦略と技術戦略
コアコンピタンスは他社に真似できない自社の強みを指し、経営戦略の軸になります。M&Aやアライアンスは事業成長を加速させる手段です。技術経営(MOT)では、魔の川・死の谷・ダーウィンの海やイノベーションのジレンマ、キャズムといった、技術を事業化する過程の課題を理解しておくことが大切です。
コアコンピタンスや競争戦略、M&Aといった経営戦略の実行手段、技術経営(MOT)の考え方を説明できるようになります。イノベーションに関する代表的な用語も押さえます。
企業が戦略を実現するための具体的な手段や、技術をどう経営に活かすかという視点は、ストラテジ系全体の理解を深める重要なテーマです。試験でも頻出のキーワードが多く含まれます。
コアコンピタンスと競争優位性
企業が競争の中で優位性を保つためには、自社ならではの強みを明確にすることが重要です。この「他社に簡単には真似できない、自社の核となる強み」をコアコンピタンスと呼びます。コアコンピタンスは、特定の技術力やノウハウ、長年培ってきたブランド力、独自の生産方式など、企業によってさまざまな形をとります。単元9で学んだVRIO分析は、この強みが本当にコアコンピタンスと呼べる水準かどうかを、経済価値・希少性・模倣困難性・組織という4つの視点から確認する手法だと理解しておくと、両単元のつながりが見えてきます。
コアコンピタンスを軸に経営戦略を組み立てることで、企業は限られた経営資源を効果的に活用し、持続的な競争優位性を築くことができます。逆にいえば、自社の強みが何かを見極めずに事業を展開すると、価格競争などに巻き込まれ、収益性を維持しにくくなる恐れがあります。自社の強みを客観的なデータに基づいて洗い出す姿勢が、コアコンピタンスの見極めには欠かせません。
競争優位性を築く戦略の型として、経営学者のマイケル・ポーターが提唱した競争戦略もよく知られています。ポーターは、企業が競争優位を築く基本戦略として、コストを抑えて低価格で勝負するコストリーダーシップ戦略、他社にはない独自の価値を提供する差別化戦略、特定の狭い市場に経営資源を集中させる集中戦略の3つを挙げています。コストリーダーシップ戦略と差別化戦略が業界全体を対象にするのに対し、集中戦略は特定のセグメントに絞り込む点が違いです。集中戦略はさらに、コストで勝負する型と差別化で勝負する型に分けて考えることもできます。
これらの戦略は、単元9で学んだファイブフォース分析やSWOT分析とあわせて理解すると効果的です。業界の競争環境を分析したうえで、自社がどの戦略を選ぶべきかを判断するという流れで、経営戦略の一連の考え方がつながっていきます。試験では、それぞれの戦略が「何を武器に、どの範囲の市場で勝負するのか」という切り口で問われることが多いため、武器と範囲の組み合わせを意識して整理しておきましょう。実際の企業でも、コスト・独自性・専門性のどれを軸にするかを明確にできていない場合、どの顧客層にも中途半端な印象を与えてしまい、収益性が伸び悩む原因になるとされています。
M&Aとアライアンス
企業が事業を拡大したり、新しい分野に進出したりする際に用いられる代表的な手段がM&A(合併・買収)です。M&Aは、複数の企業が一つの企業に統合される合併と、ある企業が他の企業の株式や事業を取得する買収を合わせた言葉です。M&Aを活用することで、自社でゼロから事業を立ち上げるよりも短期間で新しい技術や販路、人材を獲得できます。
M&Aと似た文脈で使われる言葉にアライアンス(業務提携)があります。アライアンスは、複数の企業が資本関係を持たずに、特定の分野で協力関係を築くことを指します。M&Aが企業の経営権そのものを取得するのに対し、アライアンスはあくまで対等な立場での協力関係にとどまる点が違いです。技術提携や販売提携など、目的に応じてさまざまな形のアライアンスがあります。自社の業務の一部を外部の専門企業に委託することをアウトソーシングと呼び、経理やコールセンター、システム運用などの周辺業務を任せることで、自社はコア業務に集中できます。IT業界では、システムの開発や運用を専門企業に委託するケースが多く見られます。
「経営権を取得するM&A」「対等に協力するアライアンス」「業務を任せるアウトソーシング」という整理で覚えておくと区別しやすくなります。M&Aや資本の異動に関する用語もあわせて押さえておきましょう。自社ブランドの製品を他社に作ってもらうことをOEM、自社で工場を持たず製造を他社に委託する企業をファブレスと呼びます。加盟店にブランドや経営ノウハウを提供して事業を広げる仕組みがフランチャイズチェーンです。経営陣が自社の株式を買い取って独立することをMBO、ある企業の株式を市場外で公告して買い集めることをTOB(公開買付け)と呼びます。MBOが「経営陣自身による買収」であるのに対し、TOBは「不特定多数の株主から株式を買い集める手法」という違いで区別できます。
いずれの手段も、自社単独で全てを行うよりも早く事業を成長させたり、経営体制を見直したりするための選択肢です。試験では手段の名称と、経営権の異動があるかどうか、資本関係を伴うかどうかという切り口で区別できるようにしておくと得点につながります。
技術経営(MOT)とイノベーション
技術力を経営に活かし、企業の競争力につなげる考え方を技術経営(MOT)と呼びます。優れた技術を持っていても、事業として成功させるには経営的な視点からの戦略が欠かせません。保有する技術を洗い出して評価する技術ポートフォリオや、技術を他社に模倣されないよう権利化する特許戦略、将来の技術動向を見通す技術予測手法も、MOTを支える取り組みです。
新しい技術が製品として世に出るまでには、いくつもの壁があるとされます。研究段階の技術が開発予算を得られずに埋もれてしまう魔の川、開発した技術が事業化の資金やノウハウ不足で頓挫する死の谷、事業化できても市場での競争や顧客の評価という荒波を越えられないダーウィンの海という3つの壁が、その代表です。
市場への普及過程を説明する概念にキャズム理論があります。新しい製品は最初にイノベーターやアーリーアダプターと呼ばれる先進層に受け入れられますが、より保守的なアーリーマジョリティ以降の多数派層に広がるまでには大きな溝(キャズム)があるとされます。また、既存の優良企業が既存顧客のニーズへの対応に集中するあまり、破壊的な新技術への対応が遅れて新興企業に市場を奪われる現象をイノベーションのジレンマと呼びます。優れた経営を行う企業ほど陥りやすい、逆説的な性質を持つ現象です。
新しい事業を生み出す手法として、自社だけでなく社外の技術やアイデアを積極的に取り込むオープンイノベーション、利用者を主人公に発想するデザイン思考とその土台となるペルソナ法、将来のありたい姿から逆算して現在の計画を立てるバックキャスティング、事業の全体像を1枚にまとめるビジネスモデルキャンバスなどがあります。
これらの手法を土台に、最小限の製品で仮説検証を繰り返しながら事業を育てる考え方をリーンスタートアップと呼びます。その検証段階では、アイデアが技術的に実現できるかを確かめるPoC(概念実証)や、顧客にとって価値があるかを確かめるPoV(価値実証)が行われます。PoCが「作れるか」の検証、PoVが「価値があるか」の検証という違いで区別すると整理しやすくなります。短期間で集中的にアイデアを試作する催しをハッカソン、外部の企業やサービスと機能を連携させて新しい価値を生む仕組みをAPIエコノミーと呼びます。事業に必要な資金は、新興企業に出資するVC(ベンチャーキャピタル)や、事業会社自身が出資するCVCから調達することもあります。
この単元の確認問題
答えを見る前に、まず自分の言葉で答えてみてください。言葉にできないところが、そのまま本試験で止まるところです。
Q. 他社に簡単には真似できない、自社の核となる強みを何と呼びますか。
A. コアコンピタンスです。技術力やノウハウ、ブランド力など企業固有の強みを指し、これを軸に戦略を組み立てることで持続的な競争優位性を築くことができます。
Q. 複数の企業が資本関係を持たずに、対等な立場で特定分野の協力関係を築くことを何と呼びますか。
A. アライアンス(業務提携)です。経営権の取得を伴わず、技術提携や販売提携など対等な立場での協力関係を指し、経営権を取得するM&Aとは性質が異なります。
Q. 既存の優良企業が新興企業の破壊的な新技術への対応に遅れ、市場を奪われてしまう現象を何と呼びますか。
A. イノベーションのジレンマです。既存顧客のニーズへの対応に注力するあまり、優良企業ほど破壊的技術への対応が遅れやすいという逆説的な現象を指します。
ビジネス戦略と技術戦略は、読んで分かることと、本番で点になることが別です。点にするための材料はこちらにまとめてあります。
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- この単元のひっかけ 4件(本試験がどう引っかけてくるか)
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