簿記一巡の全体像
会社の活動は1年で区切られ、この区切りを会計期間と呼びます。簿記の1年は、取引・仕訳・転記・試算表・決算整理・財務諸表の6段階です。前半3つは期中にくり返す作業、後半3つは決算日に1回だけ行う作業です。
会計期間・期首・期末・決算日という用語を正しく使えるようになります。取引が起きてから財務諸表ができるまでの流れを、6つの段階に分けて説明できるようになります。試算表と決算整理がそれぞれ何のためにあるのかを言えるようになります。
第3問は35点の配点があり、そのほとんどが「決算日にやること」を問う問題です。ところが決算の作業は、期中に何をどう記録してきたかを前提にしています。全体の流れを先に見ておかないと、あとで決算整理を学ぶときに「なぜここでこれをやるのか」が分からないまま手順だけを覚えることになります。この単元は地図です。細かい処理は覚えなくて構いません。
会計期間という区切りがあります
会社の活動はずっと続きます。区切りがなければ、いつまでたっても「いくら儲かったか」を計算できません。そこで人為的に1年で区切ります。この区切られた1年を会計期間と呼びます。
用語を整理します。
| 用語 | 意味 | ミナタカ商事の場合 |
|---|---|---|
| 期首 | 会計期間の初日 | ×1年4月1日 |
| 期中 | 期首から期末までの日々 | ×1年4月1日〜×2年3月31日 |
| 期末・決算日 | 会計期間の最終日 | ×2年3月31日 |
| 当期 | いま記録している会計期間 | ×1年度 |
| 前期 | 1つ前の会計期間 | (設立初年度なのでありません) |
| 翌期 | 1つ後の会計期間 | ×2年度 |
会計期間の区切り方は会社が決めます。4月1日から3月31日までにする会社が多いのですが、1月から12月までの会社も、9月決算の会社もあります。試験では問題文に必ず書いてあるので、まずそこを確認する習慣をつけてください。
ミナタカ商事は×1年4月1日に設立された会社なので、この1年が最初の会計期間です。前期がありません。前の期から引き継ぐ数字がゼロなので、この教材では期首の残高をいっさい気にせずに進められます。
1年の流れは、6つの段階でできています
簿記の1年は、次の6段階です。この教材の38単元は、すべてこの6段階のどこかに位置づけられます。
- 取引が起きる … 商品を仕入れた、代金を受け取った、給料を払った
- 仕訳を切る … 取引を借方と貸方に分けて記録する
- 転記する … 仕訳を勘定科目ごとの帳簿(総勘定元帳)に書き写す
- 試算表を作る … 期中の記録が正しく集計できているかを確かめる
- 決算整理をする … 期中の記録と実態のずれを直す
- 財務諸表を作る … 貸借対照表と損益計算書にまとめ、帳簿を締める
1から3までが期中に毎日くり返される作業で、4から6が決算日に1回だけ行う作業です。
試験の構成に当てはめると、第1問(45点)は2の仕訳を15問出す問題、第2問(20点)は3の帳簿まわりを問う問題、第3問(35点)は4から6を通しでやらせる問題です。簿記3級の試験は、この6段階のどこを聞いているかで大問が分かれていると考えると、いま自分が何を学んでいるのかが見えやすくなります。
期中にやること ― 取引を仕訳にして、帳簿へ書き写す
期中の作業は2つだけです。仕訳を切ることと、転記することです。
仕訳は、1つの取引を借方と貸方に分けて書いたものです。たとえばミナタカ商事が×1年6月15日に商品1,400,000円を掛けで売ったとき、仕訳はこうなります。
(借) 売掛金 1,400,000 / (貸) 売上 1,400,000
転記は、この仕訳を勘定科目ごとの帳簿に書き写す作業です。売掛金という科目のページに1,400,000円、売上という科目のページに1,400,000円を、それぞれ書き写します。この帳簿を総勘定元帳と呼びます。
仕訳と転記は、同じ情報を2つの並べ方で持っているだけです。仕訳は日付順、総勘定元帳は科目順。日付順だと「6月15日に何があったか」がすぐ分かり、科目順だと「売掛金がいまいくらあるか」がすぐ分かります。用途が違うので両方を持ちます。
この2つのやり方は単元2でくわしく扱います。ここでは「期中は仕訳と転記のくり返しである」ということだけつかんでください。
試算表 ― 期中の記録が正しく集計できたかを確かめる
決算日が来たら、まず試算表を作ります。総勘定元帳の全科目の残高を1枚の表に並べたものです。
試算表の役割は、借方の合計と貸方の合計が一致するかを確かめることです。仕訳は必ず借方と貸方を同じ金額で書きます。それを全部集計すれば、合計も必ず一致するはずです。一致しなければ、どこかで転記を間違えているか、金額を写し違えています。
ミナタカ商事の決算日の試算表は、借方合計・貸方合計ともに3,100,000円でした。これを決算整理前残高試算表と呼びます。決算整理をする前の、期中の記録だけを集計した状態です。
ただし、試算表が一致しても間違いがゼロだとは言えません。借方と貸方を両方とも同じ金額で間違えた場合や、そもそも仕訳を1本まるごと忘れた場合は、一致したまま通ってしまいます。試算表は「集計ミスを見つける装置」であって、「正しさの証明」ではありません。
試算表そのものの作り方は単元30で扱います。
決算整理 ― 期中の記録と実態のずれを直す
期中の記録は、お金が動いたときに書いています。ところが決算日に会社の状態を正しく表そうとすると、それだけでは足りません。
たとえばミナタカ商事は、×1年10月1日に1年分の家賃240,000円をまとめて払いました。期中の記録では、払った時点で240,000円全額を支払家賃という費用にしています。しかし決算日(×2年3月31日)の時点で使ったのは10月から3月までの6か月分、120,000円だけです。残りの120,000円は翌期の分です。
このずれを直す作業が決算整理です。決算整理でやることは、大きく次の4つです。
| 整理事項 | 何を直すか | 単元 |
|---|---|---|
| 売上原価の算定 | 仕入のうち、売れた分だけを費用にする | 31 |
| 貸倒引当金の設定 | 売掛金のうち回収できない見込み額を見積もる | 32 |
| 経過勘定 | 前払い・前受け・未払い・未収の期間のずれを直す | 33 |
| その他(減価償却など) | 備品の価値の目減りを費用にするなど | 13・34 |
ミナタカ商事の決算整理は全部で7項目、仕訳にすると7本です。この7本を入れたあとの試算表を決算整理後残高試算表と呼び、その合計は3,268,000円になります。整理前の3,100,000円から168,000円増えています。
第3問で問われるのは、ほぼこの部分です。逆に言えば、決算整理の7つの型を確実にできるようにすれば35点が見えてきます。
財務諸表を作って、帳簿を締める
決算整理が終わったら、いよいよ最後です。決算整理後残高試算表を、収益・費用のグループと、資産・負債・純資産のグループに分けます。
- 収益と費用 → 損益計算書へ。差額が当期純利益210,000円
- 資産・負債・純資産 → 貸借対照表へ。合計2,010,000円
単元1で見たとおり、損益計算書で出た当期純利益210,000円は、貸借対照表の繰越利益剰余金として同じ金額で現れます。決算整理後残高試算表を水平に切ると、上半分が貸借対照表、下半分が損益計算書になり、切った両側に同じ210,000円が反対の側に立つ。これが簿記一巡のいちばん最後の景色です。
そして、収益と費用の勘定は残高をゼロに戻します。翌期はまた売上ゼロから数え直すためです。この作業を帳簿の締切といい、単元36で扱います。資産・負債・純資産の残高は、そのまま翌期の期首残高として引き継がれます。
これで一巡です。翌期の期首から、また取引・仕訳・転記が始まります。
簿記一巡は年に1回ではありません。多くの会社は毎月締めて試算表を作り、この流れを12回繰り返したうえで年度末の決算を組みます。
この単元の確認問題
答えを見る前に、まず自分の言葉で答えてみてください。言葉にできないところが、そのまま本試験で止まるところです。
Q. ミナタカ商事の決算日はいつですか。また、この会社に前期が存在しないのはなぜですか。
A. 決算日は×2年3月31日です。×1年4月1日に設立された会社で、この1年が最初の会計期間だからです。
決算日を取り違えると、決算整理でどこまでを当期の分として計算するかが全部ずれます。問題を解くときは、まず会計期間を確認してから読み進めてください。
Q. 6つの段階のうち、決算日に1回だけ行うのはどれですか。番号で答えてください。
A. 4(試算表)・5(決算整理)・6(財務諸表)です。
1から3は取引が起きるたびにくり返します。4から6は年に1回です。この区別がつくと、あとで「期中は繰越商品を動かさない」といった原則が理解しやすくなります。
Q. 仕訳と転記は、それぞれ何の順に並んでいますか。
A. 仕訳は日付順、転記した先の総勘定元帳は勘定科目順です。
同じ情報を2通りに並べ直しているだけだと分かると、転記が「別の新しい作業」ではなく「並べ替え」だと理解できます。第2問で帳簿が問われたとき、この見方が効きます。
簿記一巡の全体像は、読んで分かることと、本番で点になることが別です。点にするための材料はこちらにまとめてあります。
- この単元の確認問題 あと3問
- この単元の問題 9問(どこをどう間違えたかまで解説)
- この単元のひっかけ 5件(本試験がどう引っかけてくるか)
- 財務諸表ラボ(切った仕訳が貸借対照表と損益計算書のどこに現れるかを画面で追う)
- この単元をそのまま簿記専用AIチューターに質問できます
- 間違えた問題だけを自動で拾い直す復習リスト
「第1章 簿記の地図をつくる」の他の単元
この単元を、手を動かして確かめる
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