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簿記の目的と5つの要素

簿記3級 無料テキスト 単元01/第1章 簿記の地図をつくる/重要度 ★★★★/出題箇所 第1問・第3問(全単元の土台)/読む目安 40分 登録不要で読めます

ここだけ読めば

簿記は、会社のお金の動きを記録して、貸借対照表と損益計算書という2枚の書類にまとめる技術です。貸借対照表は決算日という一時点に何を持ち何を返す義務があるかを、損益計算書は1年間でいくら稼ぎいくら使ったかを表します。

この単元を読み終えるとできること

貸借対照表と損益計算書が何を表した書類なのかを言葉で説明できるようになります。勘定科目を見たときに、それが資産・負債・純資産・収益・費用のどれなのかを判断できるようになります。当期純利益が2枚の書類の両方に現れる理由を説明できるようになります。

なぜこの順番でここに置いているか

この単元だけを狙った問題はほとんど出ません。それでも最初に置いているのは、ここを飛ばすと第3問で必ず詰まるからです。第3問は「集めた数字を、貸借対照表と損益計算書という決まった形に流し込む」問題です。流し込む先の形を知らないまま仕訳だけを覚えると、どこかで必ず手が止まります。

簿記が最後に作るのは、2枚の書類です

簿記とは何をする技術なのかを、先に決めておきます。会社のお金の動きを記録して、最後に2枚の書類にまとめる技術です。

その2枚とは、貸借対照表損益計算書です。前者はB/S(ビーエス)、後者はP/L(ピーエル)と呼ばれます。実務でも試験でもこの略称がふつうに使われるので、ここで覚えてしまってください。

2枚は答えている質問が違います。

書類答えている質問対象の時間
貸借対照表(B/S)決算日の時点で、何をどれだけ持っていて、いくら返す義務があるか決算日という一日
損益計算書(P/L)1年間で、いくら稼いで、いくら使って、いくら残ったか1年間

この教材では、ミナタカ商事株式会社という文房具の卸売会社の1年間を、最初から最後まで追いかけます。×1年4月1日に設立され、×2年3月31日に最初の決算日を迎える会社です。この会社の1年が終わったとき、貸借対照表の合計は2,010,000円、損益計算書の当期純利益は210,000円になります。

いまはこの2つの数字の意味が分からなくて構いません。これから38の単元をかけて、この2つの数字を自分の手で出せるようにしていきます。

この2枚は、別々の書類ではありません

貸借対照表は、決算日という一日の写真です

貸借対照表は、左右2つに分かれた表です。左を借方(かりかた)、右を貸方(かしかた)と呼びます。この呼び名に意味はありません。単に左と右の呼び方だと思ってください。

左側に並ぶのが資産です。現金、預金、売掛金、商品、備品など、会社が持っているものです。

右側は上下に分かれます。上が負債、下が純資産です。負債は買掛金や借入金など、将来お金を払う義務のことです。純資産は、株主が出したお金(資本金)と、会社が稼いで社内に残した利益です。

ミナタカ商事の×2年3月31日の貸借対照表は、大づかみに言うとこうなっています。

借方(資産)金額貸方(負債・純資産)金額
資産 合計2,010,000負債 合計800,000
純資産 合計1,210,000
合計2,010,000合計2,010,000

左右の合計は必ず一致します。これは偶然ではありません。左側は「お金がいまどんな形になっているか」を並べたもので、右側は「そのお金がどこから来たか」を並べたものだからです。同じお金を、形の面と出どころの面から2回数えているだけなので、合計が違うことはありえません。

貸借対照表という名前も、この左右がつり合う(対照する)ことから来ています。

損益計算書は、1年間の動画です

損益計算書は、1年間の成績表です。

入ってきた側を収益、出ていった側を費用と呼びます。そして収益から費用を引いた残りが当期純利益です。

収益 − 費用 = 当期純利益

ミナタカ商事の1年間はこうなります。

項目金額
収益(売上高)1,400,000
費用(合計)1,190,000
当期純利益210,000

1,400,000円を売り上げ、1,190,000円を使い、210,000円が残った1年でした。

ここで気をつけたいのは、「売上」と「現金」はまったく別のものだということです。商品を売って代金を後で受け取る約束をした時点で、売上という収益は発生します。そのときお金はまだ1円も入ってきていません。損益計算書に載るのは売った事実であって、お金が動いた事実ではありません。

収益と費用は、1年が終わるとゼロに戻ります。次の年はまた売上ゼロから数え直します。一方で資産や負債は、決算日をまたいでそのまま次の年へ引き継がれます。ここが5つの要素の性格の分かれ目です。

B/Sは一日の写真、P/Lは1年間の動画です

当期純利益は、2枚の書類の両方に現れます

ここがこの単元でいちばん大事なところです。

損益計算書で計算した当期純利益210,000円は、そこで終わりではありません。同じ210,000円が、貸借対照表の純資産のなかに繰越利益剰余金という名前で現れます。

ミナタカ商事の1年を、貸借対照表の変化で見てみます。

×1年4月1日(設立時)

借方金額貸方金額
現金1,000,000資本金1,000,000

株主が1,000,000円を出資しただけの、まっさらな会社です。まだ何も稼いでいないので、繰越利益剰余金は0円です。

×2年3月31日(期末)

借方金額貸方金額
資産 合計2,010,000負債 合計800,000
資本金1,000,000
繰越利益剰余金210,000

資本金1,000,000円は変わりません。増えたのは繰越利益剰余金の210,000円です。これは損益計算書の当期純利益とぴったり同じ金額です。

つまり、損益計算書は「純資産が1年でいくら増えたか、その中身」を説明した書類でもあります。2枚は独立した別々の表ではなく、当期純利益という1つの数字でつながっています。

このつながりは、決算のいちばん最後(単元38・単元36)でもう一度、仕訳の形で確認します。いまは「同じ210,000円が2枚に出てくる」ということだけ頭に置いてください。

設立 → 1年間のもうけ → 期末。3枚はこの順につながります

5つの要素と、その定位置

ここまでに5つの言葉が出てきました。資産・負債・純資産・収益・費用です。簿記で扱うものは、すべてこの5つのどれかに入ります。例外はありません。

そして5つには、それぞれ定位置があります。

要素定位置どこに載るか
資産借方(左)貸借対照表
負債貸方(右)貸借対照表
純資産貸方(右)貸借対照表
収益貸方(右)損益計算書
費用借方(左)損益計算書

借方が定位置なのは資産と費用の2つ、貸方が定位置なのは負債・純資産・収益の3つです。

この表は、貸借対照表と損益計算書をそのまま並べたものです。貸借対照表の左が資産、右が負債と純資産。損益計算書の左が費用、右が収益。それを1枚にまとめただけなので、丸暗記する必要はありません。2枚の書類の形を思い出せば、定位置は毎回そこから引き出せます。

この定位置が、次の単元2で仕訳を切るときのルールの土台になります。増えたら定位置の側に書き、減ったら反対側に書きます。これだけで仕訳の借方と貸方が決まります。

5つの要素には、それぞれ決まった居場所があります

勘定科目がどの要素かを見分ける

実際の問題では、「現金」「売掛金」「支払家賃」といった具体的な名前で出てきます。この名前を勘定科目と呼びます。勘定科目を見て、それがどの要素かを即座に判断できることが、この単元のゴールです。

見分け方は、次の順に考えます。

  1. 将来お金をもたらすもの、または会社が持っているもの → 資産
  2. 将来お金を払う義務 → 負債
  3. 株主が出したお金と、稼いで残した利益 → 純資産
  4. その1年で稼いだもの → 収益
  5. その1年で使ったもの → 費用

ミナタカ商事の期末の勘定科目を、この基準で分けてみます。

勘定科目要素判断の根拠
現金・当座預金資産いま持っているお金
売掛金資産将来お金を受け取る権利
繰越商品資産売れば将来お金になるもの
前払費用資産先に払った分だけサービスを受ける権利がある
備品資産会社が持っているもの
買掛金負債将来お金を払う義務
借入金負債将来返す義務
未払法人税等負債将来納める義務
資本金純資産株主が出したお金
繰越利益剰余金純資産稼いで社内に残した利益
売上収益その1年で稼いだもの
仕入・給料・支払家賃費用その1年で使ったもの

迷いやすいのは、名前に「払」や「受」が入っているものです。

字面ではなく、権利なのか義務なのかで判断してください。

実務現場から

月次で役員が先に見るのは、当期純利益ではなく営業利益です。税金は四半期ごとにしか確定しないため、本業のもうけを表す数字のほうが月々の判断に使われます。

この単元の確認問題

答えを見る前に、まず自分の言葉で答えてみてください。言葉にできないところが、そのまま本試験で止まるところです。

Q. 貸借対照表と損益計算書の違いを、「時間」という言葉を使って一文で説明してください。

A. 貸借対照表は決算日という一時点の状態を表し、損益計算書は1年間という期間の成績を表す書類です。

この違いが、あとで「現金は貸借対照表、売上は損益計算書」と迷わず振り分けられるかどうかを決めます。一時点か期間かで見分けるのが、いちばん間違いの少ない方法です。

Q. 銀行から500,000円を借りると、会社の現金は500,000円増えます。それでも借入金は資産ではありません。なぜですか。

A. 借入金は将来お金を返す義務だからです。増えた現金のほうが資産で、その出どころとして借入金という負債が右側に立ちます。

「お金が増えたから資産」と考えると必ず間違えます。資産と負債は、増えたか減ったかではなく、それが権利なのか義務なのかで分かれます。この取引は資産と負債が同時に500,000円ずつ増える取引です。

Q. 「×2年3月31日時点で会社が持っている現金128,000円」は、貸借対照表と損益計算書のどちらに載りますか。理由も答えてください。

A. 貸借対照表です。ある一時点で持っているものなので資産にあたり、期間の成績ではないためです。

「時点か期間か」で振り分ける練習です。現金は決算日をまたいでそのまま残るので、翌期もその金額から始まります。収益・費用のようにゼロに戻ることはありません。

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