仕訳のルールと転記
借方は左、貸方は右。この2つの言葉に意味はありません。 資産と費用は借方が定位置、負債・純資産・収益は貸方が定位置です。 増えたら定位置側、減ったら反対側。
借方と貸方がどちら側かを、迷わずに答えられるようになります。5要素それぞれについて、増えたとき・減ったときにどちら側へ書くかを判断できるようになります。仕訳を総勘定元帳へ転記し、T字勘定の残高がどちら側にいくら残るかを説明できるようになります。
第1問は仕訳が15問で45点あります。合格は100点満点の70点ですから、ここだけで合格ラインの大半を占めます。第2問の帳簿も第3問の決算も、いったん仕訳を書いてから解く形になるので、仕訳が書けないと最初の一歩で止まります。この単元で扱う定位置のルールは、残り36単元すべての土台になります。
借方と貸方は、左と右の呼び名です
簿記では、紙やモニターの左半分を借方(かりかた)、右半分を貸方(かしかた)と呼びます。この2つの言葉に意味はありません。お金を借りているから借方、貸しているから貸方、ということではないのです。単なる左右の呼び名です。
意味を探そうとすると、ここで止まります。借入金は「借りている」お金ですが、貸方に書きます。売掛金は代金を「貸している」ような状態ですが、借方に書きます。名前と中身は一致していません。左が借方、右が貸方。この2つだけを覚えてください。
覚え方としては、ひらがなの最後の一画で判断する方法があります。「かり」の「り」は最後が左に向かって払う形なので左。「かし」の「し」は最後が右に向かって跳ねる形なので右。この程度の覚え方で十分です。試験では借方・貸方という言葉が問題文にそのまま出てきますから、左右がすぐ出てくる状態にしておく必要があります。
仕訳とは、1つの取引を借方と貸方に分けて書き表すことです。ミナタカ商事株式会社の最初の取引を見ます。×1年4月1日、株主から現金1,000,000円の出資を受けて会社を設立しました。仕訳は次のようになります。
(借)現金 1,000,000 (貸)資本金 1,000,000
左側に現金1,000,000円、右側に資本金1,000,000円。これで1つの仕訳です。どの科目を左右のどちらに書くかを決めるルールを、次の節から順に見ていきます。
5要素には、それぞれ定位置があります
勘定科目は必ず資産・負債・純資産・収益・費用の5つのどれかに属します。そして5要素にはそれぞれ定位置(ホームポジション)が決まっています。
- 資産:借方(左)が定位置。将来お金をもたらすもの。現金、当座預金、売掛金、備品など。
- 負債:貸方(右)が定位置。将来お金を減らすもの。買掛金、借入金、預り金など。
- 純資産:貸方が定位置。資本金など。
- 収益:貸方が定位置。売上など。
- 費用:借方が定位置。仕入、給料、通信費、水道光熱費など。
定位置は暗記するものではなく、財務諸表の形からそのまま決まっています。貸借対照表は左に資産、右に負債と純資産を並べた表です。損益計算書は左に費用、右に収益を並べた表です。この左右が、そのまま定位置になっています。
資産と負債の見分け方でつまずきやすいのが借入金です。銀行から借りると手元の現金が増えるので、資産のように見えます。しかし増えているのは現金という資産のほうで、借入金は「将来返さなければならない」という義務です。将来お金を減らすものなので負債です。ミナタカ商事は×1年4月1日に銀行から500,000円を借りていますが、このとき増えた当座預金500,000円が資産、返済義務である借入金500,000円が負債です。
定位置さえ決まれば、あとのルールは1行で終わります。次の節で見ます。
増えたら定位置、減ったら反対側
仕訳のルールはこの1行です。増えたら定位置側に書く。減ったら反対側に書く。
5要素それぞれに当てはめると、次の8通りになります。
| 要素 | 増えたとき | 減ったとき |
|---|---|---|
| 資産 | 借方 | 貸方 |
| 負債 | 貸方 | 借方 |
| 純資産 | 貸方 | 借方 |
| 収益 | 貸方 | 借方 |
| 費用 | 借方 | 貸方 |
多くの人は増加のパターンだけを覚えて先に進みます。すると返品や訂正が出てきたときに手が止まります。収益が減る、費用が減るという場面は実際にありますから、減ったら反対側、までを1セットで覚えてください。
ミナタカ商事の×1年7月31日の取引で確認します。売掛金1,000,000円を当座預金で回収しました。動いたものは2つです。当座預金は資産で、1,000,000円増えました。資産の増加なので定位置側の借方です。売掛金も資産ですが、回収したので1,000,000円減りました。資産の減少なので反対側の貸方です。
(借)当座預金 1,000,000 (貸)売掛金 1,000,000
同じ資産どうしでも、増えたほうが借方、減ったほうが貸方に分かれます。要素が何かではなく、増えたか減ったかで左右が決まる、という順序で考えてください。
仕訳は3つの手順で作ります
取引文を読んで仕訳を書くまでの流れを、毎回同じ3手順に固定します。慣れるまでは声に出して手順どおりに進めてください。
手順1 動いたものを2つ以上あげる。手順2 それぞれが5要素のどれで、増えたか減ったかを決める。手順3 増えたら定位置、減ったら反対側で左右に振り分け、金額を書く。
ミナタカ商事の×1年5月20日の取引で試します。「商品800,000円を仕入れ、代金は掛けとした」という取引です。
手順1。動いたものは、仕入れた商品と、あとで払う代金の2つです。勘定科目でいうと仕入と買掛金です。
手順2。仕入は費用で、800,000円発生しました。買掛金は負債で、支払義務が800,000円増えました。
手順3。費用の増加は定位置の借方。負債の増加は定位置の貸方。したがって次のようになります。
(借)仕入 800,000 (貸)買掛金 800,000
なお、ネット試験(CBT)では勘定科目を自分で書かず、プルダウンから選ぶ形式で解答します。漢字が書けなくても選べれば正解になりますが、逆に、プルダウンに用意されていない科目は答えではありません。科目名がどうしても出てこないときは、選択肢を上から順に見て、5要素のどれかで当てはまるものを探すという解き方ができます。ただし迷った時間はそのまま失点につながるので、日ごろは自分で書けるところまで練習しておくほうが安全です。
借方と貸方は必ず組み合わさる(取引の8要素)
前の節の表を、借方に来るものと貸方に来るものに並べ替えると、次のようになります。これを取引の8要素といいます。
借方(左)に来るもの
- 資産の増加
- 負債の減少
- 純資産の減少
- 費用の発生
貸方(右)に来るもの
- 資産の減少
- 負債の増加
- 純資産の増加
- 収益の発生
仕訳は必ず、左の4つのどれかと右の4つのどれかが組み合わさります。これを結合関係といいます。左どうし、右どうしの組み合わせは存在しません。「現金が増えて、売掛金も増える」という仕訳は成立しないということです。仕訳の答えが2通り思いついたときは、この結合関係に合っているかで判断してください。
片側が1行とはかぎりません。片方または両方が2行以上になる仕訳を複合仕訳といいます。ミナタカ商事の×1年9月25日の取引がその例です。給料240,000円について、所得税20,000円を預かり、差引220,000円を当座預金から支払いました。
(借)給料 240,000 (貸)預り金 20,000 当座預金 220,000
給料は費用で240,000円発生したので借方です。預り金は、あとで税務署に納める義務ですから負債です。20,000円増えたので貸方です。当座預金は資産で、実際に出ていった220,000円だけ減ったので貸方です。
このとき、借方合計と貸方合計は必ず一致します。計算すると 20,000+220,000=240,000 で、借方の240,000と同じ金額になります。
転記は、総勘定元帳への写しです
仕訳は仕訳帳という帳簿に、日付順に書いていきます。ところが仕訳帳を見ても「今、現金はいくらあるのか」は分かりません。日付順に並んでいるだけで、現金の記録があちこちに散らばっているからです。
そこで、勘定科目ごとにページを分けた帳簿をもう1冊用意します。これが総勘定元帳です。現金のページ、売掛金のページ、売上のページ、というように科目ごとに口座(勘定口座)が用意されていて、仕訳をそこへ書き写します。この書き写す作業が転記です。
転記のルールは単純です。
- 仕訳で借方に書いた科目は、その科目の勘定口座の借方へ書く。
- 仕訳で貸方に書いた科目は、その科目の勘定口座の貸方へ書く。
- 金額はそのまま写す。日付と、相手側の科目名(相手科目)も添えます。
ミナタカ商事の×1年6月15日の取引で見ます。商品を1,400,000円で売り上げ、代金は掛けとしました。仕訳は次のとおりです。
(借)売掛金 1,400,000 (貸)売上 1,400,000
この仕訳を転記すると、売掛金勘定の借方に「6/15 売上 1,400,000」と入り、売上勘定の貸方に「6/15 売掛金 1,400,000」と入ります。1つの仕訳が、2つの勘定口座に1行ずつ分かれて入るわけです。
ここで大事なのは、転記では新しい判断が一切いらないということです。どちらが借方かはすでに仕訳で決まっていて、転記はそれを科目別に並べ替えているだけです。同じ情報の置き場所を変えているにすぎません。転記を仕訳とは別の難しい作業だと思ってしまうと、必要のないところで手間取ります。
T字勘定と、残高がどちら側に残るか
勘定口座を書くときに、日付欄や摘要欄を省いて、左右2つの箱だけを描いたものをT字勘定といいます。形がアルファベットのTに似ているのでこう呼びます。試験でも下書き用紙にT字勘定を書いて集計する場面が多く、実質的な必須の道具です。
ミナタカ商事の売掛金を、これまでに出てきた2つの取引で集計します。6月15日に掛けで売り上げて1,400,000円が借方に、7月31日に回収して1,000,000円が貸方に入っています。
売掛金 6/15 売上 1,400,000 | 7/31 当座預金 1,000,000
借方合計は1,400,000円、貸方合計は1,000,000円です。差額を計算します。
1,400,000 − 1,000,000 = 400,000
差額400,000円は、金額の大きい借方側に残ります。これが残高です。売掛金の残高が借方に400,000円あるということは、まだ回収していない代金が400,000円ある、という意味になります。
残高がどちら側に残るかは、定位置側と覚えてください。資産と費用は借方に、負債・純資産・収益は貸方に残高が残ります。理由は簡単で、資産は増えた分が借方に積み上がり、減った分が貸方に入るからです。持っている以上に減ることはないので、借方のほうが必ず大きくなります。負債はその逆で、増加が貸方に積み上がるので貸方に残ります。
資産と負債で残る側が逆になることを意識しないまま帳簿の締切に進むと、必ず混乱します。ここで手を動かして、残高が定位置側に残る感覚をつかんでおいてください。
貸借平均の原理
ここまで書いてきた仕訳を見返すと、どれも借方の合計金額と貸方の合計金額が一致しています。1行どうしの仕訳はもちろん、複合仕訳の給料の例でも、借方240,000円に対して貸方は20,000+220,000=240,000円でした。
1つ1つの仕訳で借方合計と貸方合計が一致するのですから、それを何百本足し合わせても一致します。これを貸借平均の原理といいます。会社が1年間に切った仕訳をすべて集計すると、借方の総合計と貸方の総合計は必ず同じ金額になります。
この性質を利用して、転記が正しく行われたかを確かめる表が試算表です。すべての勘定口座の金額を集めて借方と貸方を合計し、一致すれば転記に大きなミスはなかった、と判断します。試算表が「なぜか一致する不思議な表」ではなく、一致するようにできている表だと分かっていれば、第2問や第3問で試算表が出てきたときに戸惑いません。
逆に、一致しないときは原因が3つに絞られます。
- 片側だけ転記して、もう片側を書き忘れた
- 金額を写し間違えた
- 借方と貸方を逆に転記した
3の場合、差額はその金額のちょうど2倍になります。差額を2で割った金額を探すと、原因の科目が見つかります。数字が入れ替わった書き間違い(たとえば桁の入れ替え)の場合は、差額が9で割り切れます。差額の性質から原因を絞り込めることを知っているだけで、探す時間がかなり短くなります。
なお、貸借平均の原理は「一致すれば正しい」までは保証しません。仕訳そのものの科目を間違えていたり、取引を丸ごと記帳し忘れていたりすると、金額は一致したまま誤りが残ります。試算表は転記ミスの検出装置であって、判断ミスの検出装置ではない、と理解しておいてください。
システムが入っていても、この取引をどの科目に入れるかは税理士や監査法人に確認しながら決めます。仕訳を判断できる人は、どの会社でも必要とされます。
この単元の確認問題
答えを見る前に、まず自分の言葉で答えてみてください。言葉にできないところが、そのまま本試験で止まるところです。
Q. 次の仕訳で、貸方に書かれている勘定科目と金額を答えてください。 ``` (借)現金 1,000,000 (貸)資本金 1,000,000 ```
A. 資本金 1,000,000円
貸方とは右側のことです。この仕訳の右側には資本金1,000,000円が書かれています。左側の現金1,000,000円は借方です。
Q. 次の勘定科目の定位置は、借方と貸方のどちらですか。 ① 売掛金 ② 買掛金 ③ 売上 ④ 仕入
A. ① 借方 ② 貸方 ③ 貸方 ④ 借方
売掛金は代金を受け取る権利で、将来お金をもたらすので資産、定位置は借方です。買掛金は支払義務なので負債、定位置は貸方です。売上は収益なので貸方、仕入は費用なので借方が定位置になります。
Q. ミナタカ商事は×1年4月1日、現金800,000円を当座預金に預け入れました。仕訳してください。
A. (借)当座預金 800,000 (貸)現金 800,000
当座預金は資産で、800,000円増えました。資産の増加なので定位置の借方です。現金も資産ですが、預け入れたぶん800,000円減っています。資産の減少なので反対側の貸方になります。
仕訳のルールと転記は、読んで分かることと、本番で点になることが別です。点にするための材料はこちらにまとめてあります。
- この単元の確認問題 あと5問
- この単元の問題 28問(どこをどう間違えたかまで解説)
- この単元のひっかけ 5件(本試験がどう引っかけてくるか)
- 財務諸表ラボ(切った仕訳が貸借対照表と損益計算書のどこに現れるかを画面で追う)
- この単元をそのまま簿記専用AIチューターに質問できます
- 間違えた問題だけを自動で拾い直す復習リスト
「第1章 簿記の地図をつくる」の他の単元
この単元を、手を動かして確かめる
簿記3級AIチューターでは、いま読んだ単元の仕訳をその場で切って、 それが貸借対照表と損益計算書のどこに現れるかまで画面で追えます。 わからないところは簿記専用のAIチューターに訊けます。
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